個人14

相続が争族になってしまう前に!

背景
 被相続人は80歳代の母親。相続人は60歳代の長女、50歳代の次女の2人。今回のご相談者は、この次女の方でした。
 父親は数年前にすでに他界しており、父親の相続の際の遺産分けは特に問題になることはありませんでした。父親の遺産の多くを母親が相続し、長女と次女は法定相続分に相当する金銭を取得する遺産分けで、母親が健在でしたので子供たちが父親の遺産について特にとやかく言うことはなかったようです。しかし、今回、母親の相続になると長女と次女の関係が一変。お互いがそこは母親との思い出の家だから~、父親との思い出の家だから、と不動産や父親が残した会社の株式の分け方を互いに全く譲らない状況になりました。さらに長女の夫も口を挟むようになり、まとまるものもまとまらなくなりました。長女は弁護士や税理士にも依頼して母親の遺産分けに臨んできました。

ご不安
 次女からのご相談は、相続税申告でした。
 相続税の申告は相続の開始があった日から10か月以内に行わなければなりません。次女からその相談があった日は申告期限まで数日しかない状態で、次女が持っている資料は、長女側が作成した分割案の記載された財産目録だけでした。これは次女に何の相談もなく作成されたもので、当然次女は納得のできない内容のものです。
 このような状態で、どのような申告をすればよいのでしょうか。

アドバイス
 申告期限まで時間が数日しか無く分割協議もまとまりませんので、期限内に未分割のまま相続税の申告書を提出することにしました。
 相続税の申告書は相続人間で共同で提出することができますが、今回のケースは各々が未分割で申告することになりました。この場合、長女側の税理士にも守秘義務がありますので、長女側が提出した申告書の内容はもちろん母親の遺産の内容も分かりません。よって、とりあえず、長女が作成した財産目録に従って相続税申告を行わざるをえません。
 今回は内容が把握できないまま相続税申告を行いましたが、原則として申告書の提出後に新たに財産が発見され、評価誤りで財産が増える場合は修正申告書を提出することになります。逆に評価誤りで財産が減り、債務等の申告もれなどがあった場合には申告期限から1年以内でしたら更正の請求を行うことができます。
 未分割の申告の際に忘れてはいけないのが添付資料として「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すること。これは未分割の場合には「配偶者に対する税額軽減」「小規模宅地等の減額特例」の適用が受けらませんが「申告期限後3年以内の見込書」を提出したうえで申告期限から3年以内に分割すれば原則として適用が受けられる為です。今回のケースは「小規模宅地等の減額特例」の適用がありうる事例であり、申告期限から3年以内に分割がまとまれば、その後4か月以内に「更正の請求」をすることにより相続税額の課税価額が1億円以上減額され、それに対応する分の税額が戻ることになります。
 また申告期限より3年以内に相続した財産を譲渡した場合に「取得費加算の特例」を受けることができ、負担した相続税の一部を譲渡の際に取得費に加算することにより、譲渡税の節税になる旨の説明もしました。
 問題は、当面の納税資金です。未分割で申告しても法定相続分で相続したものとして計算した相続税を申告期限までに金銭で納付しなければなりませんが、母親の預貯金等の遺産はすべて長女側が管理していますので期限までに次女がその預金を引出して納付することができません。
 結局、納税資金は自己資金で賄うことにし、自宅を担保に金融機関からの借入れでの納付になりましたが、本税に利子税等の付帯税もかかり納付金額はかなりの金額になってしまいました。

著者ご紹介

税理士、ファイナンシャルプランナー(CFP)。小野里秀研税理士事務所所長。大学卒業後、10年以上都内の会計事務所に勤務。数多くの個人事業主、会社経営者の税金対策や借入、資金繰り等の業務に従事。現在は、相続税申告業務や資産税コンサルティングをメインとして、幅広く業務を行っている。

主担当者コメント
今回のケースはまだ係争中ではありますが、税務調査もありました。次女としては母親の遺産をあまり把握できていませんでしたので、逆に税務調査で調べて教えて下さい、というスタンスで対応しました。

弁護士からのコメント
 遺産分割は、一に相続人の範囲の確定、二に遺産の範囲確定、三四に寄与分・特別受益の判断を経て、五番目にやっと誰にどの遺産を相続させるか、という話に進みます。
共同相続人の一方が遺産の内容を他方相続人に教えないという事例はよくありますが、いたずらに紛争を長引かせるだけです。遺産分割を争うにしても、主戦場は三五にあると心得て、前提としての一二については各自協力して資料を明らかにするという対応が必要です。
 
2015/09/17
誰にどのように相続させるのか?

2015/07/10
タイトルを入力


 
▲このページのTOPへ