個人09

遺産分割の時くらい協力して下さい、お姉さん!

背景
 鹿島さん(仮名)は現在50歳、10年前に父親が立ち上げた会社を継いで社長となりました。鹿島さんにはお姉さんが1人いますが、姉は30年前に鹿島さん父子と喧嘩をして家を飛び出し、以後、全く連絡のない状態が続いています。現在お姉さんは財産にも一切興味がなく、世捨て人のような生活を送っており、父親も鹿島さんもお姉さんの生活を心配して定期的に家を訪れていましたが、いつも門前払い状態で、もうお姉さんとは縁が切れてしまったものと諦めていました。
  父親は半年前に亡くなり、そのことをお姉さんにも手紙で知らせましたが、結局お姉さんは葬儀にも出席することはありませんでした。

ご不安
 父親がなくなったことで、鹿島さんのお母さんと鹿島さん姉弟の3人が遺産相続することとなりました。父親は、経営していた会社の株式を保有していたほか、土地を15筆所有し、その他有価証券・預貯金等の資産合計は8億円(うち、預貯金額は3億円)でした。
 お母さんは鹿島さんと一緒に暮らしており、鹿島さんとの親子仲も良好でしたので、鹿島さんは遺産分割に何の心配もしていませんでしたが、普段お世話になっている税理士さんは困り顔です。お姉さんの協力がないと、遺産分割手続が進められないというのです。
お姉さんが父親の遺産を相続したいと考えているはずがなく、意外な思いもしましたが、とにかくも、お姉さんに協力を求める手紙を書きました。しかしながら、葬儀にすら出席しなかった姉です。手紙ごときで連絡をくれるはずがなく、案の定、何の進展もないまま半年が過ぎました。相続税の申告期限も迫り、困った鹿島さんは、税理士さんの紹介で私の事務所を訪れました。

アドバイス
1 本件の特殊性
(1) 遺産分割に関心のない共同相続人がいること自体は稀ではなく、そのような場合、通常は、その共同相続人が何も相続しないという内容の遺産分割協議書を作成することになります。(あるいは、その共同相続人自ら相続放棄することもあります。)
 しかしながら、本件では、お姉さんからそのような形の協力すらも得ることができず、遺産分割協議書を作成することは不可能でした。従って、何か争っているという事案ではありませんが、家庭裁判所への遺産分割調停申立が必要となります。更に、家庭裁判所からもお姉さんに協力を求める連絡がなされましたが、やはりお姉さんの協力は得られませんでしたので、遺産分割審判が不可避となりました。
(2) さて、このような場合の特殊性ですが、預貯金が遺産分割の対象から外れてしまいます。
実務上、預貯金は当然の如く遺産分割の対象として扱われていますが、実は、理屈の上では(詳しい理屈は省略しますが)共同相続人の1人でも預貯金を遺産分割協議の対象とすることに同意しなければ、預貯金は他の共同相続人の意向に関わらず法定相続割合に従って当然分割されることになってしまうのです。通常は、預貯金を遺産分割の対象とすることについて誰も争わないので問題は起こらないのですが、今回のように相続人の1人が音信不通だと、このような理屈が表面化することになります。
2 本件で行った諸手続
(1) 本件では、お姉さんが不動産や有価証券を相続しても放置されるだけであり、また、二次相続まで考慮しても配偶者控除規定を活用した方が相続税の減額となるという事情がありました。そこで、遺産分割審判にあたっては、お母さんに自宅等の一部を相続させ、残りの遺産については鹿島さんが相続することとし、お姉さんの相続分については鹿島さんより代償金を支払う形での遺産分割を裁判所に提案し、これが採用されて同内容の遺産分割審判を得ることができました。
(2) しかしながら、遺産の多くを占める預貯金が遺産分割の対象外となってしまったので、まだ相続は終わりません。鹿島さんとお母さんは、各金融機関に預貯金払い戻しを求めましたが、金融機関は共同相続人全員の実印が揃わないと払い戻しに応じてくれないので、結局、預金払い戻しのためには訴訟が必要となりました。
 また、預貯金が遺産分割の対象から外れることは実務上稀なので、相続税の課税担当者にも中々理屈が理解してもらえず、何度も足を運んで説明する事態となりました。
(3) 更に、お姉さんは代償金についても受け取りを拒んだため、代償金支払免除ということで鹿島さんに贈与税課税がなされるのを防ぐため、新たに口座を開設して代償金相当額を別途管理する等の対策が必要となりました。

著者ご紹介

弁護士・ファイナンシャルプランナー
2009年5月まで、弁護士過疎問題解消のため設立された、秋田県の能代ひまわり基金法律事務所所長を務める。
現在は東京にて活動し、一般民事(消費者被害・労働・交通事故・相続・不動産関連・債務整理等)、刑事、中小企業法務を広く手がける。

主担当者コメント
 共同相続人の協力が得られないケースとしてよくあるのは、行方不明になってしまった、精神病で判断能力がない、などの事案です。本件のように、自分の意思で遺産分割手続に一切協力しない共同相続人がいるという事例は稀ですが、どの事案にも例外的な事情はあるもので、それぞれ場面に応じた柔軟な対応が不可欠です。
 いずれの場合でも、遺言書を作成しておけば手続面のゴタゴタを回避することができますので、心当たりのある方には早期の対応をお勧めします。

税理士からのコメント
 今回のケースについては、予め遺言書を作成しておけば未然に防ぐことができたのですが、やむを得ず未分割申告となってしまう場合、「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出をお忘れなく。これを提出しておかないと後日遺産分割が確定しても、取得した財産について配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった優遇措置が使えなくなります。また、相続税の納税資金が不足する場合、相続税を分割納付する「延納」を選択することもできます。これは必要な書類を申告期限内に提出した場合に限られますが、未分割申告の場合でも適用できるので、検討の価値はあるかと思います。
 
2015/09/17
誰にどのように相続させるのか?

2015/07/10
タイトルを入力


 
▲このページのTOPへ